良く切れる革包丁はレザークラフト上達の近道です。特に革漉きするには非常によく切れるナイフが不可欠です。
ここでは、使用する砥石の選び方から良く切れる研ぎ方を詳しく紹介します。
説明のため丁寧に研いでいます。実際にはもっとラフで大丈夫。
使う砥石は?
使う砥石は、基本的に荒砥石、中砥石、仕上げ砥石の3つ使います。あくまで基本ですので、刃物の目的によって中砥石でやめても良いです。
ちなみに、私は仕上げ砥石の上の最終仕上げとして8000番の砥石も使いますが、最終的に革砥で仕上げるのであまり意味がないのかもしれません。また、3000番以上の砥石を使うときは、名倉砥石を使った方が良く研げます。使い方は後程紹介します。
↓私が普段使っている砥石です。左から
1000番/3000番キッチン砥石・・・荒砥石と中砥石
6000番キング砥石・・・仕上げ砥石
8000番剛研富士・・・最終仕上げ
名倉砥石・・・3000番以上の砥石を使うときに擦り付けて使用する
革包丁の研ぎ方
革包丁は「片刃」と呼ばれる刃物の一種。刃の片側だけに角度が付いていることからこう呼ばれます。
角度が付いている面を「しのぎ面」と呼び、平面の部分を「刃裏」と呼びます。
基本はしのぎ面を研いで刃の形を作り、最後に刃裏と交互に研いで刃を付けて仕上げます。
まず、革包丁を研ぐ前にどれくらい刃こぼれしているか顕微鏡を使ってみてみました。(倍率は40倍)
顕微鏡をiphoneで覗いて撮影したものです。ご覧の通りところどころ刃こぼれしていてギザギザになっています。
いかにも切れない感じですが、実は革を切るだけなら全く問題ないレベル。カッターナイフと同じくらいの切れ味があります。でも、これで革漉きをするとよい作品は作れません。力を入れないと切れないので失敗する確率も高くなります。
砥石の準備
砥石は水に5分ほど浸してから使用するものと、水を付けてすぐに研げる砥石の2種類あります。
水を吸いやすい砥石は5分ほど水に浸さないとすぐに表面が乾いてしまい、研ぐことができません。
いずれも砥石の取り扱い説明書に記載されています。
砥石を置くときは、硬く絞った濡れ雑巾を敷くと滑り止めや砥石が安定します。
包丁の持ち方
革包丁を研ぐときの持ち方は、右手の親指、人差し指、中指でつまむように持ちます。
(説明は右利きの場合です)
薬指と小指は革包丁の柄の部分に引っ掛け、柄を持ち上げるように意識しながら持ちます。
こうしないと、砥いでいるうちにどんどん柄の方が下がってしまいます。
そのまま砥石にしのぎ面を密着させ、左手の人差し指と中指を刃裏の先端部に添えます。
左手で抑える位置や力加減で、刃の研ぎ具合を調節します。例えば刃の右側に刃こぼれしている部分があれば右側を強く押します。また、仕上げの段階では柔らかく押し、力加減をコントロールして研ぎます。
荒砥石で砥ぐ
1000番~2000番の荒砥石はしのぎ面の整形や、刃こぼれの修正をします。
特に、しのぎ面が円弧状になりやすいので、この部分をできるだけ平面に整えます。
どうしても丸まってしまう場合はガイドを使うときれいに研げるようになります。
ガイドを使わない場合しのぎ面が円弧状にしないように、刃先角を一定に保ちながら革包丁を前後に動かして研ぎます。砥石に対し、斜めに傾けると砥ぎやすいです。
刃先角を一定に保ったまま研ぐことは難しいですが、これができないと、しのぎ面が丸くなってしまいます。とはいっても最初は誰でも丸くなってしまいます。落胆せず、一定に保てるように努力すれば徐々に平面に砥げるようになっていきますよ。
しのぎ面の角度は15°~20°が適正範囲です。
CADを使って下のような角度ゲージを作ると便利です。
角度ゲージは型紙と同じようにコピー用紙に印刷して厚紙に貼り付けて作ります。
しのぎ面を机にピッタリ付け、ゲージを重ねるとおおよその角度が分かります。
ちなみに、極端に鋭角にしすぎると刃の寿命が極端に低下し、返って切れ味が悪くなります。
↓いつの間にか角度が12°になっていたので修正した記事です。
↓実際に研いでいる動画です。砥石全体を使って研ぐと砥石の片減りを軽減することができます。
しのぎ面をしばらく研いでいると刃返りができます。刃裏から刃先を触ると、ざらざらする物ができているのが確認できるはずです。これが刃返りです。
刃先全体に刃返りができるまで荒砥石で砥ぎ続けます。
刃返りが出た状態を顕微鏡で見てみましょう。
刃の先端部にペラペラしたバリのようなものがありますね。これが刃裏側に捲れている状態が刃返りです。
顕微鏡の写真は、金属表面に傷が残っていますが、研いでいない刃裏から見たものです。
中砥石で研ぐ
刃返りが確認できたので中砥石で研ぎます。中砥石は荒砥石でできた傷を落とし、刃返りを小さくすることが目的です。研ぎ方は荒砥石と全く同じです。
3000番の砥石で砥ぐと荒砥石の傷が消え、鏡面ではありませんが光沢が出てきます。
顕微鏡の映像を見ると刃返りが小さくなっているのが確認できます。
仕上げ砥石と名倉砥石の使い方
仕上げ砥石を使う前に、水を付けてから名倉砥石で仕上げ砥石の表面を擦ります。名倉砥石の研ぎ汁が出ればOK。私は粉末状のモノを使っているので耳かき一杯分取り、水で良く伸ばします。
名倉砥石の役割は、砥石の目詰まりを防止し、研ぎ汁を出しやすくする効果があります。特に仕上げ砥石は刃物が滑ってしまいなかなか研ぎ汁が出ません。名倉の研ぎ汁で研磨すると早く仕上がりの良い刃が付きます。
仕上げ砥石はあまり力を入れる必要はありません。優しく研磨するような感覚で砥いでいきます。
10回ほどしのぎ面を砥いだら、砥石に刃裏を当てて5回ほど往復します。
この作業を3~5セット繰り返すと刃返りが取れ、鋭い刃が付きます。
革砥で最終仕上げ
仕上げ砥石で研げば十分実用的な刃が付きますが、革漉きをする場合は砥石の微小な研磨傷が引っ掛かります。そこで、最終仕上げとして革砥で研磨傷を取り除きましょう。
革砥の作り方はこちらを参照
革砥でしのぎ面を10~20回、刃裏を5~10回ほど研磨すればよいでしょう。
試し切りしてみよう
研いだ革包丁で試し切りしてみました。下の動画で切れ味を確認ください。
厚さ3mmのサドルレザーも刃がスーっと入っていき空中でスパッと切れます。ゆっくり切っていますが、さほど力は入れていません。(勢いで切っていない証拠です。)
続いて革を漉いてみました。切れない刃物で革漉きをするとポロポロ細かい削りカスが出ますが、本当に良く切れる革包丁で革を漉くと薄皮を剥くように革包丁が入っていきます。これが切れるナイフの証拠です。
↓新品のカッターナイフと革包丁の切れ味を比較してみました。
ナイフで紙を切って切れ味を確かめる動画などがありますが、切りやすいコピー用紙を使ったり、刃物を斜めに入れたり、刃を引きながら切っているものばかり。
本当に切れる刃物は、新聞紙に刃を垂直に落とすだけでスーッと切れます。
良く切れる道具を使うと面白いように革が切れるのでもっともっとレザークラフトが楽しくなりますよ。是非お試しあれ。
おすすめの革包丁
革包丁はいろいろな価格帯や包丁の幅があってどれを選べば良いのか?というご質問があったので少し説明します。
おすすめは青紙スーパー
刃物は使用している鋼と研ぎで切れ味が決まります。
研ぎの方は前述の通り練習して身につけるとして、鋼材の方は包丁を購入した時点で決まりますから、できるだけ質の良いものを選びましょう。
革包丁を選ぶときは使っている鋼をチェックします。安い革包丁は当然ですが、鋼のランクが下がります。
中には、何の鋼なのか明記していないものが高価な値段で販売しているのでちょっと注意が必要ですね。
おすすめなのが青紙鋼と呼ばれる鋼です。
青紙とは、炭素鋼にタングステンやクロムを添加した合金で、耐摩耗性に優れた鋼です。
一般の炭素鋼と比べて切れ味が衰えにくい(永切れする)刃物です。
青紙には青紙二号、青紙一号、青紙スーパーの3種類に分類され、二号→一号→スーパーの順に炭素含有量が増え、鋼の硬度が高くなります。
ということで、包丁用の鋼として、最高峰は青色スーパーです。
次に青色一号の鋼材で、両者の製品には二倍近い価格差があるので予算や求めるものに応じて購入しましょう。
幅は30mm前後がおすすめ
最初の一本を購入するときは、30mm前後の革包丁を購入すると良いでしょう。
私は24mmの革包丁を持っていますが、これだと幅広を漉くにはちょっと足りないです。
ただし、40mm以上ある大きな包丁もかえって扱いにくいので注意しましょう。
そもそも、包丁の幅が広いと研ぎにくいですし(なかなか研ぎ上がらない)、40mm以上の幅が必要なケースは滅多にありません。
(私の場合ですが、結局24mmでなんとかなっています。)
革包丁 信義
青色スーパー鋼を使用した革包丁です。6,000~7,000円と少し高価。
(※鋼材はカタログで確認済み)
私が実際に使っている包丁です。研ぎを説明している画像にも「信義」の刻印が確認できると思います。
とても堅い鋼材ですから切れ味が衰えにくく、一度研いだら革砥で整えながらしばらく使えます。
一方で、摩耗しにくいという性質のため、研ぎは少し時間がかかります。ですが、ちゃんと中砥石→仕上げ砥石→革砥と確実に研いでいけば難しいことはありません。
革包丁 秀次 (旧 極上シリーズ)
こちらは青紙一号を使った革包丁で、比較的リーズナブルな製品。
(※鋼材はカタログで確認済み)
クラフト社から販売されており、価格も3,000円前後とお手頃な値段です。
私は使ったことがないのですが、きちんと鋼の種類も明記されているので質は問題ないと思います。
鋼材も青色スーパーより柔らかい鋼材ではありますが、研ぎやすいので初心者向きかもしれません。ですが、堅い鋼材であることには違いありませんから、中砥石→仕上げ砥石→革砥と基本的な研ぎ方が身についていないと切れる刃物にはなりません。
はじめまして。iichanと申します。いつも拝見して勉強させてもらってます。作られる作品が どれもきれいで素晴らしいです。
さて 初めての革包丁の購入を考えているのですが アドバイスいただけませんでしょうか。
自分で研いで長く使いたいと思うのですが いくら位の価格帯のものがいいでしょうか。
また 幅は30mmm 34mm 39mmとかいろいろありますが
1本持つなら どの幅が適当でしょうか。
よろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
道具というのは何かの目的を達するための手段です。
どんなことをしたいのか目的がわからないとアドバイスすることができないのですが、革を裁断するだけならカッターで十分です。漉きたいのでしたら漉く幅より大きな革包丁が必要です。
価格もいろいろありますが、青紙鋼、または白鋼と明記されているものを購入すれば間違いないです。
後は研ぎの技量次第でなんとでもなります。
私は青紙スーパーの革包丁を持っています。
早速のお返事ありがとうございます。
革包丁はいらないと思っていたのですが
先日 革を漉いて少し薄くする必要があり
別たちで試みたのですが切れ味が悪くて 出来ず
面積が狭かったので 結局ヤスリでチマチマ削り
とんでもなく時間がかかってしまいました。
それで 革を漉くためには やはり革包丁を持っておく必要があると思った次第です。
白紙の物はなかなか無いので 青紙で考えようと思います。
お忙しいところ アドバイスありがとうございました。
これからも素晴らしい記事 楽しみにしています。
そういうことでしたか。
別たちが切れ味が悪いのは確かですが、研ぎなおせば革包丁より切れ味は良くなります。(切れ味は長続きしませんが)
これは単純に刃厚が薄いためなのですが、別たちで切れるようにできなければ革包丁を買っても結局は切れないと思います。
詳しくは「ナイフの切れ味が格段にアップ!革砥の作り方」にて説明しています。
アドバイスありがとうございます。
早速別たちを研いでみます。
砥石はあるのですが 今革砥を作れるだけの革がないので
どうしたものか思案中です。
別たちをよく切れるように研げたら 革包丁を買うことにします。
できるかなぁ・・・